大切なペットを亡くした後、仕事に向かう気力が湧かない日が続くことは、多くの飼い主が経験することです。「もう仕事を辞めてしまいたい」と感じる気持ちは、悲しみの深さの表れであり、責められるものではありません。この記事では、ペットロスと仕事の関係を整理し、休む際の制度・辞める前に確認すべきこと・心身のサインの見分け方・相談先をまとめています。
アイペット損害保険が2026年に公表した調査によると、ペットロスによって仕事のパフォーマンスが一時的に低下したと答えた飼育者は68.5%にのぼり、約7割が何らかの影響を受けています。一方で、仕事を休まなかった人が7割超という数字も示されており、休めなかった背景には「忌引きが使えない」「職場に言い出しにくい」という事情が大きく関係しています。
すぐに退職を決める必要はありません。ただ、悲しみが深い時期に長期間無理をすることは、心身の回復を遅らせることがあります。まずは使える制度と自分の状態を冷静に照らし合わせることが、後悔しない選択への第一歩になるでしょう。
ペットロスで仕事を辞めたくなるのはなぜか
ペットを亡くした後に仕事への意欲が急に失われる背景には、悲しみの特性と職場環境のギャップが重なっています。何が起きているのかを把握しておくと、自分の状態を客観的に見やすくなります。
ペットロスが心身に与える影響
ペットロスは、人間の家族を亡くしたときと同じ悲嘆(グリーフ)のプロセスをたどることが知られています。厚生労働省の心の健康に関する情報でも、大切な存在の喪失は精神的ストレスの大きな要因として位置づけられています。
具体的には、涙が止まらない・集中力が続かない・食欲が落ちる・夜眠れないといった症状が数日から数週間続くことがあります。仕事中に突然悲しみが押し寄せる、という体験も珍しくありません。これらは異常な反応ではなく、喪失に対する自然な心理的応答です。
ただし、症状が長引いたり日常生活に重大な支障が出たりする場合は、専門家のサポートが有効になります。「自分が弱いから」と判断するより、心身の状態をそのまま受け止めることが大切です。
職場で理解されにくい悲しみ
日本の労働慣行では、忌引き休暇の対象は法律上の「親族」に限られるのが一般的です。ペットは法的には「物(動産)」として扱われるため、多くの会社では忌引き制度の対象外となっています。
そのため、職場でペットの死を理由に休むと「それくらいで」と思われるのではないか、という不安が生じやすい状況があります。悲しみを職場で表現しにくい環境が、「いっそ辞めてしまいたい」という気持ちに結びつくケースも多くみられます。
職場の理解が得られないときほど孤立感は深まりやすいですが、その感情は悲しみへの自然な反応です。職場環境の問題と、退職の判断は、できるだけ切り離して考えるとよいでしょう。
「仕事を辞めた」と感じる人の割合と背景
キャリアコネクションが2020年に公表した調査では、ペットロスで仕事を休んだ日数として1〜2日が最多で、退職したという声も一定数見られています。退職を選んだ理由として挙げられるのは、「悲しみが続き業務に集中できなかった」「職場の理解が得られなかった」「もともと仕事への満足度が低かった」の3つが多い傾向があります。
ペットロスが直接的な退職理由になるケースと、もともとあった仕事上の不満がペットロスをきっかけに表面化するケースは区別して考えることが、後悔しない判断に役立ちます。退職を検討するなら、どちらの要因が大きいかを自分なりに整理してみるとよいでしょう。
・その気持ちは「今この悲しみが辛いから」か「もともと仕事が合わないから」か
・まず有給休暇などで数日休んでも気持ちが変わらないか
・体調不良(不眠・食欲低下など)が2週間以上続いていないか
- ペットロスによる仕事への影響は約7割の飼育者が経験している
- 忌引きはペットに適用されないため、休む場合は有給休暇の使用が基本になる
- 退職の判断は、悲しみのピーク時は先送りするのが一般的に安全とされる
- 職場の理解不足と仕事への不満は、別々に整理すると判断しやすくなる
退職の前に使える制度と休む選択肢
退職を決める前に、現在の職場で使える制度や仕組みを一度確認しておくと選択肢が広がります。知らないまま退職してしまうと、後から「休める手段があった」と気づくケースもあります。
有給休暇を活用する
労働基準法第39条では、6カ月以上継続勤務し所定の出勤率を満たした労働者に、年次有給休暇の取得が認められています。有給休暇の取得に際して、使用理由を会社に説明する義務は原則としてありません。
ペットの死を理由に正直に申し出る方法と、「体調不良」として申し出る方法のどちらも選択できます。いずれの場合も、事前連絡と引き継ぎを適切に行うことが職場との関係を維持するうえで大切です。アイペットの調査では、仕事を休まなかった理由として「有給を使いにくい雰囲気」が挙げられており、権利として存在することを改めて確認しておく価値があります。
数日間休んで状態を見てから退職の判断をすることは、医療・メンタルヘルスの観点でも推奨されることが多い対処です。「休めるかどうか」を先に確かめるだけでも、追い詰められた感覚が少し和らぐことがあります。
企業によるペット忌引き制度

近年、ペットの死亡に際して特別休暇を設ける企業が増えています。ユニ・チャームは2017年1月から犬・猫の死亡時に特別休暇1日を導入しており、読売新聞の報道によると、ペットの忌引きとして最大3日、ペットと過ごすための休暇として最大2日を設けている企業も存在します。
大東建託のケア休暇(年5日以内)、吉岡興業やミシュワンでの2日取得など、業種を問わず導入事例は広がっています。自社にこうした制度があるかどうかは、就業規則や人事部門に確認できます。
制度がない場合でも、上司に状況を正直に話して柔軟な対応を打診することは選択肢の一つです。アイペットの同調査では、働く飼育者が職場に求めることとして「ペットを亡くした際に休暇を取得できる制度」が29.6%、「社内のペットロスへの理解」が30.1%と回答されており、職場環境への要望は広く共有されています。
傷病休暇・休職制度の確認
ペットロスによる不眠・抑うつ・食欲不振などが2週間以上続き、日常生活に支障をきたす状態になっている場合は、医師の診断のもとで傷病休暇や休職制度を利用できる可能性があります。
休職制度は会社によって条件が異なりますが、就業規則で確認できます。精神科・心療内科を受診して診断書を取得することで、正式な療養期間を確保できるケースがあります。退職前に休職という選択肢を検討することは、雇用・収入・社会保険の継続という点で有利に働くことがあります。
なお、休職中の健康保険の傷病手当金(連続3日以上の労務不能が条件)についての詳細は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の公式サイト「傷病手当金」のページでご確認ください。個別の受給可否は加入保険や事業所の状況によって異なります。
| 制度・選択肢 | 対象 | 主な条件・備考 |
|---|---|---|
| 年次有給休暇 | 在籍6カ月以上・出勤率80%以上の労働者 | 理由の開示義務は原則なし(労働基準法39条) |
| ペット忌引き・特別休暇 | 制度を導入している企業の従業員 | 就業規則で確認が必要。日数は企業ごとに異なる |
| 休職制度 | 就業規則に定めがある場合 | 医師の診断書が必要なことが多い |
| 傷病手当金 | 健康保険被保険者 | 連続3日以上の労務不能が条件。協会けんぽ公式サイト参照 |
- 有給休暇は理由を詳しく説明しなくても取得できる権利がある
- ペット忌引き制度は導入企業が増えており、就業規則の確認が有効
- 症状が2週間以上続く場合は、休職や医療機関の受診も選択肢になる
- 退職前に使える制度をすべて確認することで、選択の後悔を減らせる
退職を判断するときに見極めたいサイン
「辞めるか続けるか」の判断は、悲しみの深い時期ほど難しくなります。退職後に後悔した声も一定数ある一方、続けることで心身を壊してしまうケースもあります。状態を見極める目安を整理します。
一時的な悲しみとの違いを確認する
ペットを亡くした直後の数日〜1週間は、涙が止まらない・集中できない・食欲がないという状態が続くことは自然なグリーフ反応です。この時期は感情が大きく揺れるため、重大な決断には不向きとされています。
一方で、1〜2カ月経過してもほとんど改善が見られない、職場に行くことへの強い恐怖や身体的不調が増している、という場合は単なる悲嘆の経過とは異なる状態が起きている可能性があります。時間を目安にしながら、変化があるかどうかを観察することが判断の材料になります。
仕事を辞めた後に後悔した人の多くが「辞めた直後はすっきりした気持ちもあったが、経済的な不安や孤独感が後から来た」と話しています。感情的な判断と現実的な判断を分けて考えることが、後悔を減らす上で大切です。
辞めることで解消される問題かどうかを問う
退職を考えるとき、「辞めたら悲しみが和らぐか」という問いを一度立ててみることが有効です。多くの場合、ペットへの悲しみは職場環境の変化によって解消されるものではなく、時間と心のケアのプロセスが必要です。
一方で、職場の人間関係・長時間労働・ハラスメントなど、もともとあった問題がペットロスを機に限界に達したケースでは、環境を変えることが回復を助けることがあります。この場合は、退職自体が問題を解決する手段になりえます。
「ペットがいなくなったことへの悲しみ」と「職場に行くことへの辛さ」を別々に整理し、どちらが大きいかを言語化してみると、判断の精度が上がります。信頼できる人や専門家に話してみることも、整理の手助けになるでしょう。
体と心の限界サインを見逃さない
以下の状態が2週間以上続く場合は、専門家への相談を優先することが大切です。
・眠れない・眠りすぎるという状態が2週間以上続いている
・食欲が著しく落ちている、または過食が続いている
・「消えてしまいたい」「何もかもどうでもいい」という気持ちが続く
・日常的な家事・外出が困難になっている
これらの症状は、心療内科や精神科での診察対象となりえます。「ペットロスくらいで病院に行くのは大げさ」と感じる必要はなく、専門家のサポートを得ることで回復が早まることがあります。厚生労働省の「こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」では、全国どこからでも相談できます。
- 直後の数日〜1週間の揺れは自然な反応であり、この時期の重大決断は避けるとよい
- 1〜2カ月経過後も改善がない場合は、医療や専門カウンセリングの検討が有効
- 退職で解決できる問題かどうかを、悲しみの問題と切り離して考える
- 2週間以上続く不眠・食欲不振・気力の喪失は、専門家に相談するサインになる
ペットロスの相談先と心のケア
ペットロスの悲しみを一人で抱えることは、回復を遅らせることがあります。公的な窓口・専門カウンセラー・オンライン相談など、利用しやすい相談先を知っておくと、気持ちが限界に近づいたときに動きやすくなります。
公的な相談窓口
厚生労働省の公式サイト「こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」では、精神的な不調に関する相談を受け付けています。都道府県・政令市が設置する精神保健福祉センターでも、心の健康に関する相談に対応しており、費用をかけずに専門家に話を聞いてもらえます。
また、「よりそいホットライン(0120-279-338)」は24時間365日無料で相談できる窓口で、ペットロスに関わる話も受け付けています。窓口によって対象や受付時間が異なるため、厚生労働省公式サイトの「相談窓口一覧」ページで最新情報を確認するとよいでしょう。
ペットロス専門のカウンセリング
ペットロスを専門とするカウンセラーや動物関係に理解のある心理士によるオンラインカウンセリングが、全国で利用できます。「うららか相談室」や「ボイスマルシェ」など、有資格カウンセラーとテキスト・音声・ビデオで話せるサービスが複数あります。
「アニマル・ペット・ロス お悩み相談窓口」のような、ペットロスに特化した相談サービスも存在し、深夜対応のところもあります。費用や対応形式はサービスごとに異なるため、各サービスの公式サイトで最新の料金・対応時間を確認してから利用するとよいでしょう。
カウンセリングは「弱い人が使うもの」ではなく、悲しみを安全に処理するためのサポート手段です。話すことで気持ちが整理されると、退職の判断についても落ち着いて考えやすくなることがあります。
グリーフケアとしての日常的な対処
専門窓口に頼るほどではないが何かしたい、という段階では、日常の中でできるグリーフケアが助けになります。グリーフケアとは、大切な存在を失った後の悲嘆に向き合い、回復を支えるプロセスのことです。
具体的には、ペットの写真を見て泣く時間をあえて設ける・日記に気持ちを書き出す・同じ経験を持つ飼い主のコミュニティに参加する、といった方法があります。悲しみを「早く乗り越えなければ」と無理に抑圧するより、感情を外に出す場を意識的につくることが回復に寄与するとされています。
・悲しみを書き出す:ノートにペットへの気持ちを5分間書く
・悲しみの時間を決める:1日15分「思い出す時間」をつくり、それ以外は少しずつ日常に戻る
・同じ経験者とつながる:SNSやペットロスコミュニティで気持ちを共有する
- 公的な相談窓口は無料・匿名で利用でき、精神保健福祉センターは全都道府県にある
- ペットロス専門カウンセリングはオンラインで全国から利用できるサービスが増えている
- 悲しみを抑圧せず表現する場を意識的につくることが回復を助ける
- 退職の判断を急がないためにも、相談窓口を早めに把握しておくと安心
退職後・休職後に必要な手続き
退職や休職を選んだ場合は、社会保険・雇用保険・各種手続きを把握しておく必要があります。手続きが遅れると、給付を受けられない期間が生じることがあるため、流れを把握しておくことが大切です。
退職後の健康保険と年金の手続き
会社を退職すると、翌日から健康保険の被保険者資格を喪失します。退職後の健康保険は、(1)国民健康保険への加入、(2)退職前の健康保険を最大2年間任意継続する、(3)家族の扶養に入る、の3つから選びます。
国民健康保険の加入手続きは、退職日の翌日から14日以内に住所地の市区町村窓口で行います。年金については、国民年金第1号被保険者への種別変更手続きが必要です。保険料の減免制度が自治体によって設けられている場合があるため、市区町村の窓口またはねんきんダイヤル(0570-05-1165)に確認するとよいでしょう。
雇用保険(失業給付)の手続き
雇用保険に加入していた場合、退職後にハローワークで求職の申込みを行うことで基本手当(いわゆる失業給付)を受給できます。給付を受けるには、離職票を受け取ってから住所地を管轄するハローワークに手続きします。
自己都合退職の場合は、2024年10月以降の離職者から給付制限期間が従来の3カ月から2カ月に短縮されています(ハローワークの公式案内参照)。給付額・期間・手続き方法の詳細は、厚生労働省「雇用保険の基本手当について」のページで最新の内容を確認してください。
ペットロスを理由とした退職の場合でも、「特定理由離職者」や「特定受給資格者」に該当するかどうかは、離職の経緯や医師の診断の有無によって変わります。不明な点はハローワークの窓口に直接確認するとよいでしょう。
休職中の収入を守る傷病手当金
精神的・身体的な体調不良で休職する場合、健康保険から傷病手当金を受給できる可能性があります。支給条件は「業務外の疾病・負傷により労務不能で、連続3日間休業した後、4日目以降に仕事に就けない状態が続いていること」です。
支給額は標準報酬日額の3分の2相当で、最長1年6カ月受給できます。申請には医師の証明が必要です。詳細な条件・申請書類・手続き方法は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の公式サイト「傷病手当金」のページで確認できます。国保加入者は傷病手当金の対象外となるため、在職中に申請手続きを開始することが重要です。
| 手続き | 期限・タイミング | 窓口・確認先 |
|---|---|---|
| 健康保険(国民健康保険)加入 | 退職日翌日から14日以内 | 住所地の市区町村窓口 |
| 国民年金第1号への種別変更 | 退職後すみやかに | 市区町村窓口またはねんきんダイヤル |
| 雇用保険(基本手当)申請 | 離職票受領後、すみやかにハローワークへ | 住所地管轄のハローワーク |
| 傷病手当金申請 | 休業開始後(在職中から可) | 協会けんぽ公式サイト「傷病手当金」ページ |
- 退職後の健康保険は14日以内に手続きが必要で、選択肢は3種類ある
- 雇用保険の基本手当は、離職票をもってハローワークに申請する
- 休職中の傷病手当金は在職中から申請を開始できるため、早めに確認を
- 手続き内容は制度改正で変わることがあるため、公式窓口で最新情報を確認する
まとめ
ペットロスで仕事を辞めたいと感じることは、深い悲しみの自然な表れであり、その気持ちを否定する必要はありません。ただし、退職という判断は悲しみのピークが過ぎた後に行うほうが、後悔が少ない選択に近づきます。
まずは有給休暇や職場のペット忌引き制度を確認し、数日間の休養で状態を見ることを最初の一歩にしてみてください。症状が長引く場合はカウンセリングや医療機関への相談が、退職を焦らずに済む手助けになります。
大切な存在を亡くした後の時間は、焦らず、自分のペースで過ごしてよいのです。手続きや制度は、必要になったときに一つずつ確認していけば間に合います。あなたの悲しみは、正しい悲しみです。

